忍者になれない男
私は実家に帰省するたびに、3メートルのヒマラヤ杉の枝や4メートルに伸びた棕櫚の葉などの手入れをしています。
秋になれば、桜の葉が落ちたあとによじのぼって枝をはらいます。
この夏、帰省した私は、さっそく植木の手入れをしました。
いつものようにうちの飼い猫が野良猫に追いかけられ、腰を抜かしてもどってきた姿を木の上から見て、へらへら笑っていました。
そんなときに母親の声。
「ちょっと屋根の上を見てよ。困ったことになったのよ」
「どうしたの?」
屋根を眺めると、古い平屋の瓦屋根のてっぺんから、なんと50センチもあるペンペン草が空に向かって伸びています。
「なんなの、あれは?」
「瓦を突き破って伸びてきちゃったみたいなのよ。あれ取りたいのよね。みっともないじゃないの」
たしかにサザエさんの波平さんみたいになっています。
「取るってどうすんの?」
「屋根にのぼるのよ、あんたが」
「えっー?!」
実は私は高所恐怖症なのです。不思議なことに、3、4メートルくらいの木なら何ともないのですが、それ以上となると足がすくんでしまうのです。
「だって、足場がないじゃん。どうやって屋根にのぼるの?」
「カーポートの屋根からよじ登っていくのよ。前に瓦を直してもらったときに、職人さんがそうやって登ってったよ」
「オレは職人じゃないんですけど……」
こまったことになりました。私しかいないのだから、やるしかないのです。