お年寄りのバス旅行はこわいよ~
静岡県のある小さな地方都市。お年寄りばかりが十人ほど集まる旅行グループがあります。
平均年齢75歳。みなさんは毎月、積み立てた年金で年1回、国内のバス旅行をするのがならわしとなっています。
ですが、顔を合わすメンバーは年々に少なくなります。そう、お仲間がお墓に入ってしまうからです。
それはともかく、ともかく今年も無事に生き残ったメンバーは、めでたくバス旅行を決行しました。
無事に集合すると再会を喜び合う一同。
旅先に向かってバスが高速道路を走りはじめました。すると、突然、80歳のトヨさん(仮名)が叫んだのです。
「入れ歯!入れ歯がない!うちに置いて来ちゃった!」
周囲の人がいっせいに笑いますが、トヨさんにしてみれば深刻だったのです。
「入れ歯がなければ食事もできない。旅行に出かける意味がない!」というのですからたいへん。でも、スケジュール通りに動いているバスは止められません。
トヨさんは知人の携帯電話を借りて、慌てて自宅に連絡を入れました。運良く、自宅にいた息子さんに事情を話します。
「高速を飛ばして、今すぐ入れ歯を持ってきて!」
息子さん、せっかくの休日なのに、入れ歯をかかえて高速を車で飛すことになりました。
しばらくすると、バスがサービスエリアで30分の休憩をとることがわかりました。